中长文读解
先日、とある大学の学部生を相手に講演をする機会があった。そのときは、私が一緒に仕事をしてきた仲間についてのエピソード(注1)を紹介したのだったが、後ほどアンケートを読ませてもらって驚いた。その仲間についての話を大まかに言えば、正確に欠点を持つ人間だったが、そのため面白いキャラクター(注2)であったし、仕事でも素晴らしい結果を残し、尊敬に値する(注3)人物であったというものだった。これをどう受け取ったのかわからないが、アンケートの1つに、「人の欠点について話すことに憤慨を覚える(注4)」といった趣旨(注5)のことが書いてあったのだ。
(中略)
人が個性について語る場合、どうもいい個性のことばかりを取り上げているように思う。いい個性は伸ばし、悪い個性は直しましょう、というわけだ。しかし、私にとってはどちらも大切にすべき個性であるし、そもそも(注6)こうしたものにいいも悪いもないのである。講演で話したことに関しても、私の言う彼の欠点は、一般的な考えに照らし合わせれば(注7)欠点かもしれない。けれども、それこそが彼の個性であって、成功の一因になったということだ。
しかし、そういった考えは許されないようだ。なぜか個性とは、常識的な考えからいって褒められるものでなければいけないのである。そうなると、今言われている個性とは、一般的にいいとされる個性というものがすでにいくつかあって、それをどう獲得するかを考えなければならないということになる。しかし、そんなものは個性ではないし、結局は人と同じになってしまうのである。
(注1)エピソード:ここでは、話
(注2)キャラクター:性格
(注3)尊敬に値する:尊敬できる
(注4)憤慨を覚える:腹が立つ
(注5)趣旨:ここでは、内容
(注6)そもそも:もともと
(注7)~に照らし合わせれば:ここでは、一からすれば